「みんなに迷惑かけたな」
「いや、頑張って早く復旧してくれたおかげで、助かったよ」
システム部門の田中に声をかけられた。
あれから一週間、今は何事もなくシステムは稼働している。
「もう十年なんだ」
「何が?」
「いや、あのシステムでサービスを始めてから十年なんだ」
「・・・」
「特に大きなアップデートもせずに、大事に大事に運用してきた。そろそろ限界じゃないかと思うんだ」
「なるほど、化石だね」
「あのトラブルの後、対応策を検討して提出するように指示された。だから根本的にシステムを改修する必要があるってレポートしたんだ」
「ところがさ、まあ、実際お金もかかるから、なかなか上が決断してくれない。今がチャンスなのにな」
そうだ。大きなシステムトラブルがあったんだから、安定運用のために大幅なシステム改修を実施する。ユーザーに理解を得やすいじゃないか。
「ちまちま絆創膏を貼るみたいに、ちょっとした修正を加えてるだけじゃ、時代遅れになるばっかりだし、そもそも運用自体が難しくなる。これ以上は無理だよ」
「無理。。。か」
「それがなかなか伝わらない。今すぐに決めてもらいたいのに」
そう言ってシステム室に戻っていく田中の背中が寂しく見えた。
因循苟且
古い習慣や方法にこだわって、その場しのぎの手段をとること。
決断力に欠け、ぐずぐずためらうさま。